
セリフのブラケットと楷書の起筆が語るもの
- 執筆:
- 篠原 誠一
- 記事
- タイポグラフィ
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欧文のセリフ書体を学ぶとき、最初に戸惑うのがブラケットの形です。ステムからセリフへと移行する曲線の角度と太さの変化は、書体ごとに微妙に異なり、その差がフォントの「表情」を決定的に左右します。一方、楷書の起筆も同じ問いを持っています。筆が紙に触れる最初の瞬間の角度と圧力が、文字全体の印象を決めます。
ブラケットとは何か
セリフ書体において、ブラケットとはステム(縦の主線)とセリフ(横の飾り線)をつなぐ曲線部分のことです。この曲線が急であるか緩やかであるかによって、書体の性格が大きく変わります。急なブラケットは力強く現代的な印象を与え、緩やかなブラケットは柔らかく古典的な雰囲気を持ちます。
ガラモンやカズロンのような古典的なオールドスタイル書体では、ブラケットは非常に緩やかで、ステムとセリフの境界がほとんど感じられないほどなめらかに移行します。対してボドニやディドのようなモダン書体では、ブラケットがほぼ直角に近く、ステムとセリフの対比が鮮明です。
楷書の起筆との対応
楷書で「一」という字を書くとき、筆は右斜め上から入り、一瞬止まり、そこから右へと走ります。この「入り」の角度と圧力が、文字の格調を決めます。筆が紙に触れる最初の点が、セリフ書体のブラケットに対応しています。
どちらも「線の始まりをどう処理するか」という問いに答えようとしています。欧文では金属の型で固定された形として、和文では筆の動きとして、異なる技術で同じ問いに向き合っています。この対応関係に気づいたとき、二つの文字文化が急に近くなります。
- ガラモン:緩やかなブラケット、楷書の「蔵鋒(ぞうほう)」に近い入り
- ボドニ:直角に近いブラケット、楷書の「露鋒(ろほう)」に近い入り
- センチュリー:中間的なブラケット、楷書の標準的な起筆
観察の練習として
TypeHorizonのタイポグラフィ基礎講座では、第一回に必ずこの比較を行います。活字見本帳から数種類のセリフ書体を選び、ブラケットの形を鉛筆でなぞります。次に、同じ紙に楷書の起筆を書いてみます。二つの動作を並べると、手の感覚として共通点が見えてきます。観察は目だけでなく、手を動かすことで深まります。
ブラケットの形を意識して書体を見ると、書店の棚や街の看板が少し違って見えてきます。次に本を開いたとき、ステムとセリフの境界に目を向けてみてください。
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